スベリオリル
目白にあるこのシプリアン聖堂には
オルガニスト、聖歌隊のためのロフトがあって
そこに上がるには梯子に近い秘密の急階段をつかう
俯瞰のカットを得るために、挙式中、タイミングを見計らって駆け上がり
数枚撮って、指輪の交換に間に合うように滑り降りて戻った
子供の頃この教会で育ち
このロフトは自分のアジトのような場所だった
ある日、そこで昼寝していると、聖堂に人が入ってきた気がした
それは何も珍しいことではないので起き上がりもしなかったが
しばらくしてなんか変だと感じる
誰かいるにしては気配を消しているような、いないにしては誰かがいる
そっと体を起こし、静かに、怖々と階下をのぞき込むと、一人の中年男がきょろきょろと周囲をうかがいながら献金箱の鍵穴に針金を差し込んで苦闘している
当時その教会の司祭であった父が、その献金箱の鍵をかけないこと、彼らのためにわざわざ小銭を補充していることを僕は知っていたので、
「それ開いてますよ」と上から声をかけた
天の声、なんちゃって・くらいの親切心で言ったと思うが
驚いた男は、ア、スンマセンと中二の僕に頭を下げ、自分の紙袋も忘れて出ていってしまった
その時も、秘密の急階段を滑り降り、忘れ物を返そうと彼を追ったが目白通りの右にも左にもその姿はなかった
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オルガニスト、聖歌隊のためのロフトがあって
そこに上がるには梯子に近い秘密の急階段をつかう
俯瞰のカットを得るために、挙式中、タイミングを見計らって駆け上がり
数枚撮って、指輪の交換に間に合うように滑り降りて戻った
子供の頃この教会で育ち
このロフトは自分のアジトのような場所だった
ある日、そこで昼寝していると、聖堂に人が入ってきた気がした
それは何も珍しいことではないので起き上がりもしなかったが
しばらくしてなんか変だと感じる
誰かいるにしては気配を消しているような、いないにしては誰かがいる
そっと体を起こし、静かに、怖々と階下をのぞき込むと、一人の中年男がきょろきょろと周囲をうかがいながら献金箱の鍵穴に針金を差し込んで苦闘している
当時その教会の司祭であった父が、その献金箱の鍵をかけないこと、彼らのためにわざわざ小銭を補充していることを僕は知っていたので、
「それ開いてますよ」と上から声をかけた
天の声、なんちゃって・くらいの親切心で言ったと思うが
驚いた男は、ア、スンマセンと中二の僕に頭を下げ、自分の紙袋も忘れて出ていってしまった
その時も、秘密の急階段を滑り降り、忘れ物を返そうと彼を追ったが目白通りの右にも左にもその姿はなかった
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by kelham
| 2014-05-27 13:43